冬の龍

児童文学ファンタジー大賞の「奨励賞」ということで、大賞ではないからあまり期待せずに読みました。
でも、面白かったです。丑三つ時、少年3人がおっかなびっくりで心霊写真を撮りに行った神社に物語は始まります。結局、幽霊の存在は否定するものの、けやきの木の化身は人間となって登場するという作者の中にある微妙なバランス感覚が魅力です。
登場人物の繋がりや設定でちょっと甘さを感じるところもあるけれど、
一人一人がきちんと地に足つけて歩んでいるのはとても好感がもてます。登場人物の栗田さんや特徴のあるちょっと冴えない人々は、みんな作者の分身なのでしょう。皆がそれぞれに重たい過去を背負いながらも、なんとか自分の足で踏ん張って生きています。主人公のシゲルもしかり。しかしシゲルはこの物語の後、明日からの新しい日々をどのように歩んで行くのだろうか。他の登場人物はともかくとして、この物語でのシゲルの人生はまだ始まる以前です。物語が終わり、ようやくもうすぐ産声をあげるのだと予感させられます。
また、けやきの木の化身が、本当は化身ではなくただの人間なのではないかと、最後まで登場人物達に疑わせており、ファンタジーに入りすぎないところも作者の微妙なバランス感覚のたまものでしょう。しかしここまでギリギリにファンタジーから逃れようとするならば、いっそのことファンタジーの世界に入ることを一切せず、「
竜の谷のひみつ
」のように、完全なる現実の世界に立ったままでも「冬の龍」が描けたのではないか、そうした方がもしかしたらより深い物語になったのではないかという気持ちもぬぐいきれません。ファンタジーではない「冬の龍」を、読んでみたかったです。
GENの絵は、表紙は別として、挿し絵がいまひとつだったように思う。いかにも若者の絵といった軽いイメージで、年寄りや、年季の入った物の奥の深さが描けていない。ちょっと残念です。